連作ワイン劇場「ワイン長屋の人々」第3話:長屋の片隅で若旦那は叫ぶ

ヴァインゲルトナーシュトロンベルクツァバーゴイトロリンガーミットレンベルガートロッケン2018ヴェルテンベルク

ヴァインゲルトナー・シュトロンベルク・ツァバーゴイ・トロリンガー・ミット・レンベルガー・トロッケン・2018・ヴェルテンベルク

 

「若旦那いるかい?」

「おんや伴さん?こんつわ」

「ちいと面白いワインを持ってきたん」

ボトルを見るなり若旦那は渋い顔をした。

「ドイツワインざんすか?拙(せつ)はブルゴーニュ以外は・・・」

「おっと、その先は言わねえでもらいてえな、若旦那がチリ・ピノもカリ・ピノも飲まないブルゴーニュ原理主事者だってことはあっしもご存じだよ」

「分かってんじゃないの」

「そんな若旦那にこそ飲んでもらいてえなと思ってさ」

「まあね、中にはオツなワインもあるんでしょうよ。しかしそもそもワインの糖度で価値判定のお墨付きを決めるなんて、全く分かってないお国ざんすよ。ピノ・ノワールって立派なブドウ品種名があるのにシュペ・・・シュペ・・・」

「シュペートブルグンダー」

「そう、そのグンダーとやらを名乗るなんて不届きの極みでがしょ。ドイツだけですよ。スペイン語を話すチリだって英語を話すカリフォルニアだってピノはピノとしか呼ばないざんすよ」

「しかも若旦那、このワインはピノ・ノワールですらないんで」

「なんですってぇー」

若旦那は叫んだ

「ピノ・ノワール以外を飲むくらいなら。焼酎でも飲むほうがマシざんすキィィー」

 

ヴァインゲルトナーシュトロンベルクツァバーゴイトロリンガーミットレンベルガートロッケン2018ヴェルテンベルクボトル

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伴は舌打ちした。

何だい結局飲むんじゃねえか。

 

ヴァインゲルトナーシュトロンベルクツァバーゴイトロリンガーミットレンベルガートロッケン2018ヴェルテンベルクグラス

 

若旦那は思った。

おんや?悪くない。

ついつい美味いと言いそうざんす。

アッサンブラージュはトロリンガーとレンベルガー。聞きなれないブドウ品種ざんすね。これで900円台?信じらんないクオリティざんす。

色はルビー。青みの抜けたいい色のルビー色ざんす、色はなんだかマスカット・ベリーAに似てるざんすね。とても強い粘性。ストロベリーの甘系のベリー香とブラックベリーの酸味系ベリー香が両方あるざんす。味わいは先ず酸味。かなりきりっとした酸味。喉越しのいいこなれたタンニンと調和してるざんす。アフターにホワイトペッパーを思わせるスパイス感。このスパイシーさはとっても秀逸でゲスな。

余韻は結構長いんざんすね。なんだかピノ・ノワールによく似た風貌でやすね。

しかしここで美味いなんて言おうもんなら伴の奴のドヤ顔をおがまなならん、これは悔しいざんすね。

 

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「不味い!」

「へえ?」

「不味い、と言ったざんす」

「待った待った。いかに半可通の若旦那でもこのワインの良さはわかろうてもんだ」

「半可通とは何でがす。吉原(なか)行くたんびにGrand Cru 開けてる拙(せつ)ざんすよ」

「だから勘当されるんだよ。おじさんがここの大家だからって、たまたま助けてもらってんだ。この先どうするつもりだい。だいたい吉原(なか)に何しに行ってんだい。ふつうは女(なじみ)に会いに行くもんだよ」

「拙(せつ)の先のことは大丈夫。うふ。」

「へええ勘当といてもらうのかい」

「それこそ女(なじみ)にしばらく面倒見てもらいながら」

「もらいながら?」

「近い将来ワイン評論家としてデビューするざんす。おーっほっほほ」

 

呆れて伴は思う。

袋小路んとこのおとっつァん(注1)といいどうしてこの長屋の連中はどいつもこいつもワイン評論家になりたがるのかね。そもそもワイン評論家なんて仕事そんなに需要あるのか?

 

「じゃあ、ワイン評論家の先生にお尋ねしましょう。このワインのどこがダメだ?」

 

若旦那の眼が光った。

「このワインはダシがきいてない」

伴の目も光った。

「ダシか?」

「ダシざんす」

「わかるなダシだ」

「ダシよ!おわかりざんしょ」

 

伴は頷いてしまった。

確かに、なんとも表現の難しい旨味をブルゴーニュのピノ・ノワールに感じる時はある。しかしそれをダシって言っちゃっていいのか?ダシってそもそもなんだ?

 

「若旦那、そもそもダシとは?」

「祇園祭の山鉾みたいなのは残念ながらお江戸にないざんすね」

「それ山車」

「ちょっと当たってみて、反応見るざんす」

「それ打診」

「以外に人情噺の名演が多いざんす」

「それ談志」

「定期刊行が原則の書籍じゃない本ざんす」

「それ雑誌」

「コメディアンでジャズシンガーざんす」

「それ団しん也・・・ってチョット若旦那どんどん遠くなってるぜ」

「じゃあこのへんで勘弁してやるざます」

 

2杯目を自分でサーブした若旦那に、伴は言う。

「不味いんじゃなかったのかい?」

「2杯目以降はどうでもよがんしょ。後は泥酔までまっつぐざんす、伴さんも遠慮なくやっつくんな!」

「美味いって言えよ、強情っぱり。大体俺が持ってきた御酒(ごしゅ)だい。人の酒を不味いとか言いながらぐびぐびやるってなどういう了見だよ」

「これ位厚顔じゃないとワイン評論家なんてつとまらないざんす。おーっほっほほ」

 

なんでございます。じつにどうもこの乱暴な評論家もあったもんで・・・伴さんと若旦那の与太話はまだまだ続きます。キリがないてんで御開(おしら)きということで。

 

 

(注1)第1話の主人公のおとっつァんのフルネームは『袋小路おとっつァん』です。実はおとっつァん、とは親族呼称ではなく『おとっつァん』という名だったのです。びっくりしますね。顧問も最近知ってびっくりしました。

 

 

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若旦那ときたら志ん朝で決まりでしょう。

三代目 古今亭志ん朝
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六代目圓生の真似なんかも絶品ですが、フランク・シナトラ辺りの歌真似もじつに楽しい団しん也。このアルバムは往年のジャズのスタンダードナンバーというより広くポピュラーソングから選曲してるので、ジャズシンガー団しん也を聴きたい方には物足りないかも知れませんが・・・声の魅力は充分伝わりますね。

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昭和の落語に馴染み出すと「じつにどうもこの」がじつにどうもこの聴きたくなってきます。

六代目 三遊亭圓生
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